大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所三次支部 昭和43年(家)79号 審判

申立人 花岡フジ子(仮名)

相手方 花岡美夫(仮名)

主文

当事者間の当庁昭和三八年(家イ)六〇号婚姻費用分担調停事件において定められた婚姻費用分担方法を昭和四三年一一月一日以降の分につき次のとおり変更する。

一、相手方は申立人と同居または離婚するに至るまで申立人の生活費(医療費を含む)中月額一万二、〇〇〇円を負担するものとする。

二、相手方は申立人に対し前号の金員を各当月の二五日限り送金または持参して支払うこと。

三、上記以外の婚姻費用は各自の負担とする。

理由

一、本件当事者間の婚姻費用の分担方法は、さきに当庁の調停により定められている。しかし、一度調停等により婚姻費用の分担方法(夫婦間の扶養方法といつてもよい)が定立された場合でも、その後その定立当時に予測し得なかつた事情の変更が生じた場合にこれを変更しうることは、契約一般に適用される事情変更の原則の類推ないし民法八八〇条の類推により肯定されなければならない。ただし、それ故にまた、その新たに定める分担方法は、それが当事者の合意ではなく審判という一方的な形でなされる場合には、現在の事情のみに基いて全く新たな見地から定立すべきものではなく、前定立時の事情と現在の事情とを比較し、その変化の程度に応じて前に定めた分担方法を修正するに止めるべきものである。

二、そこで事情変更の有無を検討するにあたり、従来の経過をみると、本件当事者間の婚姻費用分担の方法については昭和二五年六月一九日当庁において調停により別紙第一のとおり定められ、ついで昭和三八年七月一八日当庁において調停により別紙第二のとおり変更され、ついで昭和四〇年一一月一二日当庁において別紙第三のとおり変更されたことが認められる。これら三次にわたる分担方法決定のうち昭和四〇年一一月一二日の調停による婚姻費用分担は、過去の特別出費の分担と将来の特別出費については相手方の事前または事後の承認を得たものについてのみ相手方が分担することとを定めたもので将来の経常的婚姻費用の分担方法に関する限りは昭和三八年七月一八日の調停条項を変更したものではないと考えられる。

三、よつて、昭和三八年七月一八日の調停時において考慮された主たる事情が今日どのように変化したかを検討すると、昭和三八年当時は

(一)  申立人の生活費は月額最低約一万二、〇〇〇円を要し、申立人は胆嚢症兼慢性肝炎で通院治療中であつた。

(二)  相手方の月収は税込み約六万円弱であり、健康状態は年齢相応であつた。

これに対して今日では

(一) 申立人の生活費は月額最低約一万七、〇〇〇円(増加率一・四二倍)であり、健康状態は時折神経痛の治療をうける程度で、小康状態といえる。

(二) 相手方の月収は税込み約九万円弱(増加率一・五〇倍)であり、健康状態は胃癌術後の低血素性貧血肝機能障害で稍々不良である。

(三)  農村における物価上昇率は昭和四二年一〇月現在で一・二四倍であつて、この間の平約上昇率は年間五~六%程度である。

四、以上の事情変動および今後三年程度の間に生ずべき物価上昇も斟酌するとき、相手方の負担すべき婚姻費用(医療費を含む)を月額一万二、〇〇〇円に増額するのを相当と認める。

五、なお、相手方は相手方所有の株券一五〇株を申立人が窃取したと主張してその返還を求め、さらに申立人が居住している家屋の敷地(向原町大字坂九五番地の一)は申立人と相手方との共有であるから、右土地を申立人がその弟坂○正ほか二名にこれを贈与したのは不当であり、その登記を抹消するよう求め、これらを婚姻費用分担増額の条件としたい意向のようであるが、その真実の所有権は当裁判所に明かでなく、また当裁判所はこれを確定する権限もないので、相手方としては民事訴訟によつてこれらを請求するほかはなく、本件審判にあたりその主張を採用することはできない。

六、よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 森岡茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例